機械の体
生理があってよかった。
怒りの感情をちょっと思い出すことができるから。
わたしはどうして暴力を振るったことがないのだろう。
目の前のものを壊しても、ぜんぜんすっきりすると思えない。
愛じゃないと身体のどこも良くならないよ。
村上龍の小説のラストみたいに、世界がぶち壊れる想像をする。
それさえあればおさまる程度の怒りしかないのかも。
怒りは悲しみとか寂しさを感じないために起こる感情らしい。
悲しみとか寂しさを感じやすいのは、怒り方がわからないからか。
怒りたい。
ヤンキーみたいに素直になりたい。
思い返すと、村上龍の小説のラストって本当に世界がぶち壊れてばかりだ。
破壊衝動を創作にぶつけることは、なんて健やかで、人間的なんだろうね。
蛭子能収みたいに、嫌いな人間を漫画の中で殺すのをやりたい。
嫌いな人間なんていないけれど。
動物が苦手だ。馬鹿だから。
ペットを飼うことを想像すると怖くなる。
全部わかりあえないとつらいから。
日曜日に雨の中道に迷ってからずっと左足のふくらはぎが痛い。
家から徒歩10分のところでたくさん迷ってしまった。
わたしの脳みそはとても動物的なのに、体は壊れた機械みたいにぎくしゃくにしか動かない。
身体をじょうずに使える人に憧れる。
ダンスなんかしちゃってさ。
誰かの言葉ばかり言ってることがなるべくばれませんように。
絵の中の人と話した
先月ずっと描いていた油絵を、コンクールの会場に搬入した。
巨大な絵を抱えて電車に乗るのはいつも少し恥ずかしい。
1メートル以上もの大きな絵を、自分の意思で描きたくて描いてしまうなんて、主張が過ぎる、うかれている人という感じがするから。
絵を描いてる時はつらい時間のほうが長くて、つらくなるたびに、これで最後にしよう、この膨大な自分だけの時間を、家族や友達や恋人を喜ばせる時間にまわそう。と思うけれど、
たいてい描き終わる頃には気分がよくなっていて、次は何描こうかなあと考えている。
描いている最中、ずっと絵の中の女と話していた。
脱毛のこと、友達のこと、日々の腹立ちのこととか、そうとう喋ってしまった。
ひとりごとも相手がいると弾むみたいだ。
バイトの帰り道、爪みたいな月が出ていた。
乱視だから16個くらいに見えた。
夜、歩道橋から、下の道路を見るのが好きだと思った。
光が動くのが綺麗だし、車が小さくてつるつるでかわいい。
今年のクリスマス会のプレゼント交換では、最高にかわいいミニカーを探して回そうかな。
シチューは、よく混ぜないと変な感じになるということを学んだ。
今日のこと
保健所に行った。
想像していた通りの、薄ら汚れた、でかくて白くてさみしい四角だった。
受付のばばあの、ちりちりにこんがらがった白髪の中で、コバエらしき虫が死んでいた。
気になってしょうがなくなり、頭に虫います!と言って指に取った。
ばばあはわたしの指から虫をつまみ取り、じっと見て、蟻だっ!と無邪気に笑った。
HIV検査をした。
陰性だった。
帰りの電車に、とても声が高く、とても背の高い、おそろいの赤いTシャツを着た坊主にめがねの二人組が立っていた。
会話しているのに向かい合わず、同じ方をむき同じ顔をしていた。
夢をみているような気分になった。
二人組と、女子高生集団の喋り声が頭の中でぐわんぐわんしてきたから、久しぶりに銀杏BOYZを聞いた。
峯田の声、おばあちゃんみたいに優しかった。